エンジニア の 独り言

ダイアフラム

RADIANのダイアフラムに交換すると高音がもっと出るようになりますか?」
といったご質問をよくいただくのですが、答は三つあります。

1)はい
ダイアフラムやエッジの質量が小さい分、高音域のレスポンスは改善されます。

2)はい+いいえ
コンプレッション・ドライバーの高音域はフェイズプラグの設計によって、高音域の
限界は決まっています。フェイズプラグはイコライザーとも呼ばれていることからも
お分かりだと思いますが、バスレフのようにピーキングをもたせて、高音域の音圧を
上げ、よりフラットな特性にすることが可能になっています。しかし、そのピーキング
の周波数より上では、バスレフの超低音域と同じように、かなり急激に落ち込んで
しまいます。したがって、そのピーキングまでに関して言えば改善されますが、
それ以上の超高音域に関しては期待できません。

3)いいえ
スロートから開口部までが長い大型のホーンをお使いの場合、高音域の特性は
犠牲になっており、いくらドライバー側で出していたとしても音圧は低下してしまい
ますので、トータルではそれ程改善されない場合もあります。

RADIANのダイアフラムに交換する一番のメリットは音質の向上です。
レゾナンス(共鳴)を利用してまで見かけ上の特性を良くする無意味さを理解して
いただける方にお薦めします。

ダイアフラムの素材に求められる要素は何でしょう。
  • 質量が少ないこと (軽いこと)
  • 剛性が高いこと (固く丈夫なこと)
  • 内部損失が大きいこと (レゾナンスが少ないこと)
  • 固体伝送スピードが速いこと (振動がすぐ伝わること)
つまり、軽くて、頑丈で、変形せず、ダイアフラム自体は叩いても音がしないこと
といった、物理的な性質から見て相反する要素が絶妙なバランスで求められて
いることになります。

ベリリウムは剛性が高く、固体伝送スピードも速いため注目されましたが、音質的
にも独特なレゾナンス(共振)があり、耳に優しくないという欠点があった上、非常
に毒性が高い金属を蒸着技術によって成形しなければいけないため、環境に
有害だという致命的なマイナス面が問題視されていますので、市場から姿を消す
のも時間の問題でしょう。

チタンがダイアフラムに採用され出したのはそれほど新しくなく、日本の音研と
いうメーカーでもチタン・ダイアフラムを採用していました。ただ、どういう訳かロット
毎に音質に差が生じ、加工性の悪さが露呈していたようでした。
チタン自体は比重がそれほど小さくはなく、アルミ合金と同じ強度を持たせた
場合、重くなってしまう分だけ不利ですが、エッジを一体成型で作る場合は、
金属疲労に強いということが唯一の利点としてあげられます。実際、アルミの
タンジェンシャル・エッジですと、コンサート・ツアーなどで酷使した場合、金属
疲労のため半年でダメになってしまうというクレームが続出していましたので、より
金属疲労に強いチタンという素材にシフトせざるをえなかったのかもしれません。
しかし、チタンは固いため、これまでのタンジェンシャル・エッジでは振幅がとれず
やむなく折り紙からヒントを得たダイアモンドエッジなどが開発されましたが、
エッジでの共振や反射など問題は残されているようです。

アルミは古くからダイアフラムに採用されてきている素材ですが、ウーファーの
振動板に今でも紙が採用されているように他の素材には代え難い優位性がある
ようです。
ソニーの最新のドライバーにもアルミ合金のダイアフラムが採用されたということも
アルミが素材として優れていることを証明しているのではないでしょうか。
アルミは金属疲労に対する耐久性はあまりありませんので、変形が激しく起こる
部分(エッジなど)には不適であり、そういう部分にはマイラーフィルムのような
別の素材を使用する必要性があります。

左のフレームのJBLの2440に、チタンのダイアフラムをRADIANのダイアフラム
に交換した際の周波数特性を載せておりますが、高音域の改善もさることながら
ホーンのカットオフ周波数に近い中低音域もJBL本来の特性に戻っているようです。
お客様からも中音域が厚くなったというご感想もいただいておりますが、このデータ
はそれを裏付ける証拠とも言えます。

番外の答え)いいえ
本来は周波数特性とは関係ないことなのですが、RADIANのダイアフラムの場合
混変調歪みや高調波歪みが少ないため、5kHzの信号を入れても10kHzや15kHz
の歪みは派手には出ません。以前、高調波歪みが派手に出るドライバーをお使い
だった方がEMILARRADIANのドライバーに交換したところ、高音が全く出なく
なったとクレームをつけてこられたたことがありました。それまで聞こえていた
シンバルの音が出なくなったということでしたが、ミキシング・コンソールの出力で
測定したところ、8kHz付近から高音域がダラ落ちになっており、20kHz付近では
30dBも落ちているという周波数特性でした。それまでは入れてない音が出ていた
というわけです。
RADIANのダイアフラムに交換したら、高音が出なくなったと感じられた場合は、
是非、ドライバー迄の経路の周波数特性をチェックしてみてください。
RADIANのダイアフラムは原音に忠実なため、入っていない音は出ません。