エンジニア の 独り言

ウーファーについて
(ダイレクト・ラジエーター)


RADIAN 2215B

上の画像は、ごく一般的なウーファーですが、現在のような形になったのは
オルセン がRCAで設計したスピーカーシステム LC-1Aからと言っても良い
でしょう。
それ以前は、出力の小さなアンプで、より大きな音を出すために、ホーン型
スピーカーが主流だったのですから、ホーンを使わずに空気を直接、振動板
で動かすという能率の悪い方式は、当時の数Wしか出せないパワーアンプ
の事を考慮すると、実用的とはいえなかったかもしれません。
それでも、ホーン型スピーカーと比べ、圧倒的に小型化が可能であり、しかも
広い周波数帯域をカバーさせることができるため、大音量が必ずしも必要
とはされないラジオなどに採用され、あっという間に広まったようです。



当初は、ウーファーに限らず、空気を直接振動させるスピーカーはダイレクト・
ラジエーターと呼ばれるのが一般的でした。
物理的な特性として、最低共振周波数(fo)から振動板が動く限界までの音を
再生することが可能なわけですが、様々な制約があることも事実です。
まず、低音域ですが、同じ音量の場合、低い周波数ほど振幅が大きくなるの
ですが、foより下の周波数では振幅がそれ以上大きくならないため、音圧が
どんどん下がってしまいます。また、能率を上げるためには、より大きな振動板
が必要になりますが、大きくすればするほど、指向性がつきやすくなってしまい
更に高音が出にくくなります。理論的にはコーン紙の直径が半波長以上になる
周波数から指向性が狭くなるわけですが、高い周波数ほど振動板が速く動く
必要があるため、振動板の質量によりエネルギーのロスが増え、放射できる音
エネルギーの総和(パワー・レスポンス)は低くなっていきますので、軸上では
フラットな周波数特性が得られることが多く、実用上、一つのユニットでも充分
な周波数帯域をカバーすることが可能になっています。
昔は良くオーディオ雑誌などで、ウーファーは指向性がつき始める周波数以下
で使うべきだと言う記事を見かけたのですが、それですと30cmのウーファーでも
680Hzまでしか使えないことになってしまい、ホーン型スピーカーと組み合わせ
る事を考えますと、得策ではありません。むしろホーンと同じ程度まで指向性が
つく周波数までクロスオーバー周波数を上げた方が良い結果が得られることが
多いようです。

日本のオーディオ・マニアは世界的に見ますと例外的にホーン型スピーカーを
家庭にまで持ち込む傾向がありますが、ヨーロッパや北米では、このダイレクト・
ラジエーター型スピーカーが主流になっています。
確かに振動板を軽く固い素材で作れば超高音域も再生可能ですし、高調波歪
もホーンと比較して少なくはなりますが、小口径のドーム型スピーカーからは
生々しい音は聞こえてこないのが不思議です。日本人だけが綺麗だけど生気
のないサウンドより、元気で生音に近いサウンドを好むのでしょうか???

物理的な観点からは、ダイレクト・ラジエーターは低音域で使用するのが最適だ
といえます。よく、小口径の方がトランジェントが良いはずだと20cm程度のウー
ファーをミッド・ローに使い、3ウェイ、4ウェイのシステムを組んでいるオーディオ・
マニアの方から相談を受けるのですが、中音域以上にホーンを採用される場合は
小口径ゆえの弱点である、能率の低さが足を引っ張り、エネルギー感の乏しい
こぢんまりとしたサウンドになりがちです。人の声や楽器の基音に相当する帯域を
小口径のウーファーに任せてしまいますと、そのシステムのキャラクターが小口径
のウーファーに支配されてしまい、安っぽい音になってしまうようです。
理論的には、より軽い素材でエッジを固くしてfoを高くしたミッド専用のウーファー
を採用すればいいのですが、残念なことに、そのようなウーファーは音離れが悪く
ホーンとのつながりも最悪というケースがほとんどで、市場からはほとんど姿を消し
てしまっているのが現状です。

楽器用の場合は音響工学など初めから無視されていますので、小口径のウーファ
ーを1台の箱に多数入れてしまった製品をよく見かけますが、小さなユニットで低音
を出さなければいけないため、口径の割に重い振動板を使い、エッジも振幅がとれ
るように柔らかくする必要があるため、同じ放射面積を持つ38cmウーファーより
トランジェントが悪くなってしまっています。測定すれば直ぐ分かることなのですが、
楽器用のスピーカーを設計(?)製造しているメーカーでは、耳だけで判断してい
るようですので、まともな動作など望むべくもない状況なのでしょう。皮肉的な見方を
しますと、まともな動作をするスピーカーでは演奏のアラが全て丸見えになってしま
うため、鈍いドンクサイ音のするスピーカーの方が好まれる傾向があるということで
しょうか。素晴らしいプレイヤーの場合、良いスピーカー・システムの方が、より上手
く聞こえるのですが.....



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