エンジニア の 独り言

オーディオ・マニアの方から、自分でもダイアフラムの交換はできるでしょうかというご質問を良くいただきますので、ここで解説させていただきます。このページをご覧になって、自分でもできるかどうか、御判断下さい。
当社で交換する際には、技術料が別途かかります。


まず、ドライバー後部のカバーを外します。
次に、リード線をダイアフラムから外します。
900シリーズでは圧着端子になっていますが、
800シリーズではネジ止めになっています。
新しいモデルではバックキャップが
つくようになりましたが、要領は同じです。

 
RADIANの場合、このバック・カバーが902-8Tのバックキャップの働きも兼ねていますので、非常に合理的な設計になっています。
オーディオ評論家を含め、バック・カバーの容積が大きい方が良いと信じ込んでいる方や、カバーの内側にフェルトなどの吸音材を貼ってなければダメだと思いこんでいる方もいらっしゃいましたが、科学的な根拠はないようです。JBLの新しいモデルでもバックッキャップによってこの部分の容積を制限するような構造になってきていますが、一番の理由は今までのバック・カバーでは共振してしまうからです。見た目は立派でも強度不足と言うことです。また、フェルトには吸音効果はなく、しいて言えば、バック・カバーの鳴きをわずかながら抑える程度の働きしかありません。バック・カバーの内部では150dB以上の音圧に達しますので、吸音材自体無意味な存在ですが....
一番、良い方法は、この内部の振動をバック・キャップ/バック・カバーを通じてドライバー本体/ホーンに伝え、熱エネルギーに変えてしますことです。この変換効率を良くするには、ドライバー本体を重たくすることでも可能ですが、ホーンの剛性を高め、速い音速でエンクロージャーに伝えてしまう方が、ドライバーをわざわざ重くするより、合理的です。同じ質量のエンクロージャーとホーンに取り付けた場合、軽いドライバーの方がトータルの剛性は向上しますので、RADIANのように軽くて強い構造のドライバーの方が有利です。

RADIANのダイアフラムの極性は、全てのターミナルにの電圧がかけられると、フェイズ・プラグの方へ動くように設定されています。
このためオリジナルとはの表示が逆になる場合もありますが、リード線をクロスさせてバックキャップのターミナルの極性と無理矢理合わせず、取り付けられる向きのまま配線して、スピーカーケーブルを接続するところで、逆に接続して元の極性に戻してください。ALTECのドライバーではのターミナルにの電圧をかけるとフェイズ・プラグから離れるように設定されている場合もあり、更にロットによっては、ネットワークで逆相接続しなければいけない場合、ターミナルの極性をユニット単体で販売している製品とは逆の表示にしている場合もありますので、ご確認下さい。

 

288等、1.4インチスロートのドライバーも同じです。



この手のダイアフラムで飛んでしまうのは、このジャンパー線の部分が多いようです。
たいしたパワーも入れていないのにと思われた方もいらっしゃるとは思いますが、このように、空中で90度曲げた状態で1秒間に数千回、数万回も振動を加えられれば、ほとんどの金属は疲労をおこし、1960年代のジェット機のように徐々に亀裂が生じて最終的には破断してしまっても、何の不思議もありません。この基本設計は1950年以前ですので、まだ金属疲労についての研究が充分ではない時代の遺物でしょう。
RADIAN、JBL等では、ごく初期からエッジの部分に直線的にジャンパー線を取り付けていましたので、問題の発生は稀でした。
ALTECも最終モデルでは改良されたようですが....
この部分を無理矢理半田付けしてそのまま使っている方もいらっしゃるようですが、特性が悪化していますので、お諦め下さい。

厳密に言えば、金属のエッジも疲労が速く進みます。アルミ合金製のエッジですとPAで使用して約半年が限界で、高調波歪みや混変調歪みの増加など、その後の特性の悪化は顕著です。


ダイアフラムを固定している3本のネジを外します。


ダイアフラムは2本のガイドピンで位置決めがされていますので、真上にそっと引き上げて外します。

ギャップを掃除機で掃除してから、更にガム・テープなどで金属のゴミや汚れなどを取ってきれいにします。
懐中電灯などを使うと、ゴミを発見しやすくなります。

初期のドライバーでは、このガイドピンが単なる棒になっていて、固定されていますが、中期以降になりますと、このガイドピンが微調整できるように改良されています。このネジを弛めれば中空のピンが少し動くようになります。
ドライバー側の精度さえ良ければ、そのまま何も調整する必要はありませんが、少しでもビリつくようでしたら、センタリングを取り直す必要があります。

ちなみに左の写真のフェイズプラグはタンジェリン型ですが、詳しくは こちら をどうぞ。

センタリングを取るためには、左の写真のようなスぺーサーが用意されていました。
ガイドピンのネジを弛めた状態で、これをギャップに装着してからダイアフラムを装着し、ガイドピンのネジを締めます。
これでセンタリングがとれたことになりますから、一旦ダイアフラムを外し、スペーサーを取り除いてから再びダイアフラムを取り付け、3本のネジでダイアフラムを固定します。

このスペーサーが無い場合や、より厳密にセンタリングをだすためには、発信器などで200Hzから上の周波数をスイープさせビリツキがないことを確認する必要があります。
もし、ここでビリツキがあるようでしたら、ダイアフラムを微妙に動かしながらビリツキのない位置を探して、固定用のネジを締めます。
ネジを締めるとビリツキが発生することもありますが、そのような場合は締め付ける順番を変えるとか、固く締めるとビリつくネジの位置のダイアフラムとプレートの間にセロテープのような薄いフィルムをスペーサーとして挟み込むと直ることがあります。

そして、リード線を配線して、バックカバーをかぶせれば終了です。
この時、リード線の+とダイアフラムの+の印が逆向きになる場合もありますが、此処でクロスさせずに、そのまま配線してください。

注意点
この時、磁力によってねじ回しの先がダイアフラムの方へ吸い付けられますので、ねじ回しの先をもう一方の手で抑えるなどして注意してネジを回してください。
慣れた方でも、良く犯してしまうミスです。
少しぶつけたくらいでは、それほど特性に影響はないのですが、金属疲労は早まりますし、精神衛生上好ましくないということで、すぐに新品交換される方もいらっしゃいます。
PA等で何台も使われている方でしたら、交換する必要性はないと思いますが、ステレオペアーでお使いの場合は、経年変化のこともありますので、交換していただいた方が良いかもしれません。<商売、商売 (^^;;


タンジェリン・フェイズ・プラグ

このフェイズ・プラグはALTECの発明ではなく、左のフレームの[天才エンジニア]
で触れた Lansing Manufacturing Company 284Western Electric から
同心円型スリットのフェイズプラグは特許侵害だと訴えられてしまったため、設計変更を
余儀なくされた際、James B. Lansing 達によって、苦肉の策として生み出された形状
です。
ALTECが取った特許はこのタンジェリン型のフェイズ・プラグをプラスティックの一体成型
で作るという製造特許のみです。
ちなみに、同心円型スリットのフェイズプラグの発明自体 Western Electric のものでは
なかったと、その後裁判で認められたため、 Lansing Manufacturing Company
は晴れて同心円型スリットのフェイズプラグを採用できるようになりました。
タンジェリン型のフェイズ・プラグは同心円型と比較して中音域以下でロードがかかりにくく
ホーンのカットオフ周波数よりかなり上の周波数までしか使い物にならないため、開発に
関わり、このタイプの製品をその後も製造していたRCAですら、早々に見切りを付けたよう
です。高音域もそれほど伸びているわけではありませんし、使用帯域全体の変換効率の
面でもメリットはないように思われるのですが....