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こうすることによって最高のS/N比が稼げるわけですが、録音ソースによってはVUメーターが振り切れっぱなしということになり、あまり気持ちの良いものではありません。此処ではインターシティのマイクプリアンプに+24dBmまで一挙に増幅してもらっていますので、S/N的にも視覚的にも問題はありませんでした。

レシーバーから出力されたワイヤレスマイクからの信号はマイクプリアンプで増幅されヤマハのAD-808でA/D変換されています。同社のDMP7では2チャンネル毎に1個のA/Dコンバーターが交互サンプリングで使用されていましたが、DMP7Dでは各チャンネルに1個ずつ使用するように変更され音質的にもかなり改良されているようです。

ピアノ用のマイクの出力もこのAD-808でA/D変換しても良かったのですが、今回は池宮氏自身が解説される声もミクシングしなければならず、万が一ミスがあった場合でも大丈夫なようにPCM-2000にピアノの音だけを録音しました。そしてこのPCM-2000AD-808からのデジタル信号をDMP7Dでミクシングしたわけですが、この場合PCM-2000からAES/EBUフォーマットでデジタル信号が入力されると、この信号がDMP7Dのマスタークロックになりますので、AD-808DMP7Dを通してPCM-2000のクロックに外部シンクロさせています。

DMP7Dはほとんどの機能をMIDIでコントロールでき、今回も池宮氏がピアノを弾きながら解説する状態でのミクシングをSTOREキーで記録しておき、ピアノを弾いている時手動で下げていたワイヤレスマイクのフェーダーをRECALLキーを押して瞬時に元に戻せるようにしておきました。このオートメーションは非常に役に立ち、突然しゃべりだされても聴いていてほとんど分からないほどのスピードで対応できました。

またワイヤレスマイクからの信号はDMP7D内蔵のEQのLowとHighをシェルビング型にして使い、パラメーターは32Hz:-15dB、18kHz:-3dBに設定しました。

さて、このミクシングされたデジタル信号はDMP7Dの同軸OUTから出力され、ソニーのPCM-553ESDに入力されます。民生用のDATでは44.1kHzのデジタル信号はダビング禁止信号の有無にかかわらず一切受け付けませんが、このPCMプロセッサーでは大丈夫です。これには民生用のVTRが必要で、DATが出現した現在ではもう時代遅れと思われがちですが、何しろDATより更に長時間録音ができるうえ、テープのランニングコストも安いのですから、私のようにあまり資金のないものには大変助かります。

これまでPCM-F1を使って録音したテープをなんとかしてデジタル信号のままCDのフォーマットに変換しようと苦労してきましたが、ここにきてやっとすっきりしたかたちでCD用の録音ができるようになったことは非常に喜ばしい限りです。

さて肝心の音質ですが、自宅のブラックホールで再生して何人かの人達に聴いてもらいましたが、特にピアニストには好評でした。中には音に鋭さがないというオーディオマニアも約1名いらっしゃいましたが、彼にとってのピアノの音とはピアノの中を覗き込むような音のようで、私のイメージするピアノの音とは根本から違っているようでした。私にはハンマーの音がきつすぎると聴いていて何か落ち着かないのですが、HiFiマニアには快感なのでしょうか。古き良き時代のアメリカのラグタイムピアノにはソフトな音がふさわしいと思うのですが....

いずれにしても私には自分で聴きたい音楽を聴きたい音質で聴けるようにするだけしかできませんが、それを他の人にも気に入ってもらえたら幸いです。

録音 : 1989/4/19 静岡市民文化会館中ホール


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