エンジニア の 独り言

模造品について

先日、ある方から、外見はJBL2445にそっくりなドライバーのダイアフラムを
ラジアンの1245に交換して欲しいと依頼されたのですが、イミテーションですと
精度が出ていない可能性がありますので、一旦現物をお預かりして、取り付け
られるかどうか確認させていただいたのですが・・・





確かに外見はJBLの2445にそっくりですが・・・





エッジがダイアモンド型ではなく、丸形です。
このダイアフラムに関する情報を入手いたしました。





なんと7重スリット!!!!!!!
でも、何故、スリットが真っ直ぐなんだろう?



お客様に相談の上、構造をチェックさせていただきました。
フェイズプラグは見せかけだけで、本来ならエクスポネンシャル・カーブを維持しながら
スロートまで広がっていかなければいけない最も重要な部分が単なるスリットでした。
他の部分を真似する前に、なぜ一番肝心な部分だけでも真似しないのか理解に苦しみ
ます。



しかも、最外周のスリットは接着されているため、機能していません。
プラスティックの金型は安くないのですから、こんなところでケチっても、
コスト的にはあまり変わらないと思うのですが、設計と組み立てにかかる
コストを削減するのが目的のように思われます。
どうせ削減するなら、なぜ外周のフェライトマグネットが欠けるのを保護する
ゴム・カバーを省くということを考えないのか、疑問です。このゴム・カバーは
結構高くつきますが、無くても音質には全く影響しません。



更に、もう1台の方をチェックしたところ、唖然とさせられました。
ご丁寧に、ボイスコイルが入り込むギャップに磁性流体が挿入されていました。
この磁性流体は、元々磁石にくっつく液体という特性を利用して、宇宙服の密閉度を
高めるために開発された物質ですが、ボイスコイルからの熱を効果的に伝導し、耐入
力を向上させる効果があるとして、使用されていた時期もありました。
しかし、オーディオ用としてはマイナス面の方が大きいため、トップレベルの製品には
使われたことがない代物です。
磁性流体なのですから、磁力の集中するギャップにだけ留まっていなければいけない
はずなのですが、ここでは、かなりの悪戯をしまくったようで、ギャップ内の磁性流体は
グリスより更に粘り気があるような物質に変化しており、固まる前の接着剤のような働きを
していたようです。ダイアフラムに接着されたボイスコイルは剥がれ、ギャップ内にこびり
ついている状態でした。湿気を吸ってギャップから溢れ出た物質はダイアフラムや
フェイズプラグのような物にも付着していました。
ここまでひどいと、逆にこれでどのような特性なんだろうと興味がわきましたので、少しは
ましな方のユニットにJBLオリジナルのダイアフラムを取り付け、それをJBLの2380ホーン
に装着して、測定してみることにしました。
もちろん、磁性流体は完全に掻き出し、ギャップをきれいにしてからです。



やはり6本の同心円状のスリットがあけてあるプラスティックの物体は
フェイズプラグではないようです。
(インピーダンスの差などがありますので、絶対的な音圧と200Hz
 以下の特性は無視してください。)
[ACOUSTICIAN]などという大仰なブランド名ですが、この作り手の
製品にとって、これが最初で最後の特性表になることでしょう。

物真似の一番浅はかな面が垣間見える極端な例ですが、このような
音が出さえすればいいというような紛い物が、たとえどんなに安くても
日本で売られているというのは恐ろしいことです。
最近は大メーカーでも、コスト削減のため、安い製品はどこで作って
いるか判らないようなものが多く、ブランドで買ってしまうと、かえって
粗悪品をつかまされる事もありますので、せめてユニットを裏側から
みてチェックしていただいてからのほうが良いでしょう。見るからに
チャチだったら、たとえ有名ブランドでも避けていただいた方が後々
のためになるはずです。