エンジニア の 独り言

磁石について

オーディオ・マニアの方から、よく磁石はALNICOに限るとか、ネオジウムの方が良いと
いった御意見をうかがうことが多いのですが、純粋にエンジニアの見地から判断しますと
括弧付きというか、特定な条件を充たした場合に当てはまる事のように思われます。

最近、ALNICO(AlincoV)が使われなくなったのは、原料に割高なCo(コバルト)が含ま
れていることが主な原因といえるでしょう。コバルトがチタン同様、軍事物資であるため、
供給不足になったからという、まことしやかなデマが流れたこともありましたが、少し余分
にお金を出せば入手可能だったのですから、ある時期から一斉にフェライトに替わったの
は、純粋にコストの問題だったようです。

ALNICOの場合、保磁力がフェライトと比べ弱いため、厚みを増やさなければいけないと
いう理由から内磁型の磁気回路が採用されていましたが、フェライトの場合は、薄くても
保磁力にはあまり影響せず、磁束密度を高める必要性から、より大型の磁石にする必要が
あるため、外磁型の磁気回路が必然的に選ばれたというわけです。
どちらも最適な設計をすれば、特性に大差は無く、USAのエンジニア達は、「なぜ日本人
はALNICOにこだわるんだ?」という、素直な疑問を抱いていたようです。

最近は住友特殊金属(株)の佐川真人博士が開発したNEOMAX(ネオジウム磁石)という
磁石が世界最強といわれていますが、これもあまり高価な原料を使わなくても済むという
利点が評価されて普及したようです。確かに非常に磁力が強く、より軽量でコンパクトな
磁気回路を形成できるというメリットはありましたが、スピーカー用としては致命的な欠陥が
残されていました。それは温度に対して非常に弱いということで、温度が上昇するに連れて
磁力が弱まり、摂氏80度を超えるような状態になると、温度が下がっても磁力が回復しない
という現象が起きてしまいます。当初はそこまで温度が上昇しないだろうという甘い見通しの
もとに設計されてしまったようで、PAの現場や録音スタジオでは数ヶ月もしないうちに減磁
してしまい、使い物にならなくなるというトラブルが頻発したようです。その後、摂氏120度程
まで耐熱性が高められたネオジウム磁石も開発されましたが、発熱の大きいスピーカーには
解決しなければいけない問題があり、変換効率が高く、せいぜい100W程度の入力しかない
コンプレッション・ドライバーでやっと実用領域に入ったという程度でした。



これはネオジウム磁石を採用したRADIAN950の画像ですが、バック・カバーの一部を
放熱板にして、ネオジウム磁石の温度が上がるのを防いでいます。
通常の使用方法では平均で数十W程度の入力しかないドライバーでも、長時間になれば
パソコンのCPUのようにかなりの熱を持つことは必然ですので、騒音の出るFANをつけることが
できないいじょう、効果的に空冷できる放熱板が必要になります。
変換効率が10%と高いコンプレッション・ドライバーですら100Wの入力があった場合、90Wの
ヒーターが内蔵されていることになるわけですから、500W以上の入力があり、その98%以上が
熱になってしまうウーファーでは490W以上のヒーターが磁石の直ぐ近くにあるのと同等であり
冷却装置でも搭載しないかぎり、あっという間に減磁してしまうのは確実ですので、高耐熱の
ネオジウム磁石をウーファーに採用し、高性能をうたっているメーカも存在しますが、その多くは
発熱量が無視できるようなアマチュア用であったり、減磁には目をつぶっているとんでもない
ユニットのようです。
RADIANでは、NEOシリーズの同軸型スピーカーに最近開発された更に高耐熱のネオジウム
磁石を採用いたしましたが、磁石周りの熱伝導率をあげたり、ウーファー自体の変換効率を
上げることによって発熱量を減らすなどの対策を講じ、高耐入力を実現しています。