EMILAR のコンプレッション・ドライバーの開発史は、ALTECとJBLのような 古典的な1インチ・スロート・ドライバーからの進化の歴史でもあります。 右下のEA175が最も初期のドライバーで、強力なアルニコ・マグネットを搭載し 1.75インチのダイアフラムから、1970年代当時としては驚異的なハイ・パワー を叩き出していました。 左下のEK175も、他のメーカーが内磁型の磁気回路を引きずっていた時代に、 いち早くフェライト・マグネットに適した外磁型の磁気回路を採用したドライバー の先駆けとも言える製品です。 右上のEC320は更にEMILAR の先進性を発揮させたドライバーで、ガイドピン を廃止し、ダイアフラムのプレート部分の外周を溝にはめ込むというセンタリング 方式を採用した初めてのドライバーで、しかも、ダイアフラム周辺のリングに取り 付けられたターミナルがバック・カバーの穴を通して直接スピーカーケーブルに 接続できるようにした、非常に合理的な設計になっていました。 この合理的な設計はRADIANのドライバーにも引き継がれており、リード線に よる音質の変化が存在しないと言うメリットがあります。 左上の EC600 は6インチのダイアフラムを持つ3.2インチ・スロートの本格的な 中音域専用のコンプレッション・ドライバーで、150Hzから3kHz迄を驚異的なハイ パワーでカバーしていました。 |
EMILARのドライバーは初めからフェライト磁石の特性を活かすように設計され ており、非常にコンパクトで軽量化されているにもかかわらず、大型ドライバー としてのサウンドが確保できています。 軽量化には、磁気回路以外の重量を減らすと言う方法が一般的で効果があり ますが、RADIANでは更に進化させ、磁気回路を構成する素材のうち、それ 自体には磁力を増やす働きのない鉄の量を可能な限り少なくするという手法を とっています。この結果、余分な鉄を減らせる分、フェライト磁石の磁力を効率 良くボイスコイルの収まるギャップに集中させることが可能になり、しかも量が少 なくて済むことから、より高価な低炭素鋼を採用できるというメリットも生まれて きました。磁力を効率よく伝えるには鉄中の炭素を極限まで減らす必要があり ますが、一般的な製鉄では炭素の固まりであるコークスを使う関係で、どうしても 炭素が入り込んでしまう傾向がありますので、不純物の少ない鉄は高価です。 普通ですと、使用されている磁石の量が多ければ良いという見方をしてしまい がちですが、ある程度以上の量からは磁力が飽和してしまうという現象が起きる ため、それ以上能率や周波数特性を良くすることは望めません。 RADIANでは必要かつ充分な量の磁石を採用していますので、効率の良い 磁気回路と相まって、無駄に大きいドライバーより優れた特性を発揮しています。 また、この設計ですと、ダイアフラムからスロートまでの距離が短くなり、拡散性 も優れているため、ホーンの指向特性に悪影響を及ぼす可能性は少なくなって います。 そして外見からは全く分からないことですが、EMILAR/RADIANのドライバー には他のドライバーとは決定的に異なる設計思想が込められています。 それはフェイズプラグのピーキング周波数です。 コンプレッション・ドライバーのフェイズプラグはイコライザーと呼ばれることからも 判るとおり、高音域にピーキングを持たせて、その帯域をブーストしています。 一般的な設計では、見た目の特性を良くするために、このピーキングを20kHz 付近にもってくることが多く、いかにも高音域が出ているようなサウンドに仕上げて しまうのが普通です。しかし、高音域でも指向性がきつくならないホーンが増え、 ホーン・イコライザーを用いてパワーレスポンス的にもフラットな特性が得られる ようにシステムを設計するようになると、このピーキングが災いし、キンキンとした 非常に煩いサウンドになってしまいます。 EMILAR/RADIANのドライバーの場合、このピーキングを35kHz付近に設定 していますので、20kHz付近をブーストしても耳につくような嫌な音は一切しません。 更に、バスレフのチューニングで反共振周波数より低い音域では急激に音圧が 下がってしまうのと同様なことが、ピーキング周波数より上の音域でも発生し、 超高音域のレスポンスが全くと言っていいほど無くなってしまうのが普通なのです がEMILAR/RADIANのドライバーでは、20kHz以上のスーパー・ツィーターの 音域までレスポンスがあります。 これはSACDや96kHz/192kHzサンプリングで録音されたソースで威力を発揮し ますが、本来20kHzまでしか入っていないはずのCDでも、差が出てきます。 実際問題として、直径2cm以上もある大型ダイアフラムを採用したマイクでは、 20kHzはおろか、16kHzすらまともに拾えませんし、人の声や楽器自体も振動体 の質量を考慮しますと超高音はほとんど放射していないようです。例外はシンバル 等のパルス成分を多く含む打楽器ですが、40kHzをまともに拾うためには直径 6mm程度の非常に小さなダイアフラムのマイクを使う必要があり、たとえ拾えても、 今度は非常に貧弱な厚みのないサウンドしか得られませんので、聴いていて 面白くないかもしれません。コンサートホールなどで、もし20kHz以上の音が存在 したら、多分それはノイズ成分だと言うことは想像に難くありません。 |