オーディオ・マニアの方々には、古いオーディオ雑誌の記事を鵜呑みにして、確かめも せずに、システムを作ってしまう方もいらっしゃるようです。 仕事ではないのですから、どのような周波数特性や過渡特性で聴かれていても問題は ないのかもしれませんが、それに慣れてしまうと、基準がドンドン元音から離れてしまうことに なってしまいます。 |
このデータは、あるオーディオ・マニアの方のお宅へ伺って測定したALTECの同軸型 スピーカー604-8Hのウーファー部分のインピーダンス特性です。 この方は某オーディオ雑誌に載っていた「後面開放型が一番癖が無いエンクロージャー である。」との記事を信じ込まれ、ベニヤ板を木枠で補強して壁のようにして、そこに 604-8Hを取り付けられていましたが、非常にQoが小さく、foも低いというこのユニット独特 の特性を象徴的に表している特性の状態で鳴らしていらっしゃいました。 一見すると、foが32Hzと非常に低いので、低音が出るように思われた方もいらっしゃる かもしれませんが、実際は全く逆です。 |
foに向かってインピーダンスが上昇するに連れて低音域は200Hzからダラ落ちになって しまっています。ベニヤ板パネルの面積から計算すると、もう少し低音が落ち始める周波数 が低くても良いはずなのですが、パネルの共振のせいか、16cm口径のスピーカーより 低音の出ないシステムになっていました。しかし、スピーカーの近くに寄って聴いてみると 近接効果からか、音圧感は全くないものの、それなりの低音が聞こえてくるのが不思議な ところです。 ちなみに上の周波数特性はHFのレベルを最大と最小にした時の変化で、下の方はMH の方を変化させたデータです。どちらも変化させない方のレベルは中間に設定してあり ます。 |
ホーン部分を単独で鳴らすと、それなりに高音域は出ていますので、複雑なネットワークの 回路に問題があるのかもしれません。また、Hになってから、ホーンが定指向性型になって しまったため、ただでさえカットオフ周波数が高めだったのが、更にホーン・ロードがかかり 難くなり、2kHz以下は使わない方が良い状態になっています。 (緑の周波数特性は正弦波での測定ですので、無響室以外では正確なデータは得られ ませんが、ホーンロードがかかっていないことをチェックする上で参考になると思います。 ちなみに1kHz付近が一転して上昇しているのは、ウーファーのコーン紙がホーンの一部 として働いているからです。UREIでは以前このユニットのホーンをスリット付きの物に交換 し、かなり低い周波数まで受け持てるように改造していましたが、この辺の効果を利用して いたのかもしれません。 |
このユニットの場合、当然1kHz付近は使えませんので、クロスオーバー周波数は2kHz 以上に追いやられてしまう結果になっています。38cmウーファーを2kHzまで使うのは やはり苦しいようです。 この方は、この後、バスレフ型エンクロージャーの別のシステムを購入されたようですが 低音がこもるとか、高音がうるさいとか、ワイドレンジの音に慣れるのにだいぶ時間が かかったそうです。 癖のある音に慣れてしまうと、その分キャリブレーションに時間がかかってしまうようです。 |
上の特性表は別のお宅の604-8Hのデータですが、この方の場合は、 民生用のイコライザー付きネットワークではなく、PAなどで使われている ドライバー側のアッテネータだけのネットワークでしたが、高音域はこちら の方がはるかに優れているようです。 残念なことに、この方も壁バッフルだったため、200Hz以下の低音域は ロールオフしています。このユニットの場合、比較的バランスが取れて いますので、適切なバスレフの箱に入れれば、もっとまともな特性になる はずです。 |