エンジニア の 独り言

JBLの2482

JBLの2482の基になったドライバーはALTECの290シリーズが基になっており、サイレンのような警告音ではなく、人の声で情報を伝えるページングホーンスピーカーの為のドライバーだったようです。
用途的には軍事基地での空襲などの警報や、ビーチなどでの警告など、災害無線のように野外用の音声による案内をするのがメインだったようです。
従って、周波数帯域は人の話し声をカバーできれば良い程度で、日本の選挙カーに搭載されているようなラッパ型スピーカーより明瞭度が高いというレベルでした。
ダイアフラムはフェノール系で、重く、素材としての音速も遅かったため、高音域のレスポンスはオーディオ用には不向きなユニットでした。

それでも、2482はフェイズプラグの基本設計が375と同等で、フェイズプラグで高音域をブーストするイコライジングも後世のドライバーのように顕著ではない為、使い方によっては素直な音質が得られていたようです。

ちなみに、カタログデータでは20,000gaussっという、非常に高い磁束密度を謳っていましたが、テクニカルマニュアルによると18,000gauss(=1.8T)程度で、実測値も1.8Tを上回るほど高くなかったようです。
あらかじめ磁石に振動を与えて磁力を抑え減磁が緩やかになるようにしていたとの話もありましたが、アルニコV磁石は保磁力が弱いため厚みをフェライトやネオジウムより増やさざるを得なかったわけで、出荷直後の磁束密度もテクニカルマニュアル程度だったようです。

スロート径2インチ
インピーダンス16Ω
磁束密度 20,500gauss (カタログ記載)
18,000gauss (テクニカルマニュアル記載)
外形寸法直径178×奥行136mm
重量11.3kg


JBLの2482用のアルミ製ダイアフラムである1282が製造完了になってしまったため、程度の良さそうな2482ドライバーをメンテナンスした上で、最後の1282-16とダイアフラムを交換して測定いたしました。

2482のオリジナルの特性 少し古め
2482のオリジナルの特性 
ダイアフラムを1282-16と交換
ダイアフラムを1282-16と交換
少し古めの方が若干Qが低いようですが、周波数特性の方にはそれほど影響していないようです。

上掲の測定チャートは細かな特性が判りやすいように通常より縦軸が広くなっていますのでロールオフが早いように見えますが、下記のRADIANから公表されたパワーレスポンスを裏付ける特性になっています。

2482に12816を取り付けた場合のパワーレスポンスです。
パワーレスポンスはスロート径と同じ直径で、測定する最低周波数の半波長の長さにカットしたダクトを
取り付けて測定した周波数特性のことです。
ホーンの指向特性に影響されないドライバー本体のみの周波数特性ということになります。
ビーミングのあるホーンの場合、高音が軸上に集中するため高音域がブーストされて聞こえますが
少しでも軸上から外れると高音域は聞こえなくなってしまいますし、残響のある部屋では高音域の
響きが痩せて聞こえます。
こちらは程度の良い2440のダイアフラムを1245-16に取り替えた場合の特性で、ホーンのカットオフ周波数付近と、
ハイエンドのレスポンスが向上しており、Western Electric時代の周波数レンジの狭いホーン型スピーカーと
決別したJames B. Lansingの基本設計のすごさが見て取れます。
ちなみに、この周波数特性は、まともな特性のTADの4001に匹敵するほどです。
こちらは若干、減磁の影響が見られる2440のダイアフラムを1245-16に取り替えた場合の特性で、ハイエンドの
ロールオフは出ていますが、初期の2440ではフェイズプラグのイコライジングによるピーキングが後期より
ひどくないため、なだらかに超高音域までだら落ちになっており、位相シフトは少なく済んでいるようです。

カットオフの低いホーンは10kHz以上の周波数特性がホーンの出口の反射でロールオフが発生しやすくなる上、ビーミングの影響で暴れますので、高音域の特性がはっきりするように、あえて800Hz以上で使えるAH820に取り付けて測定しています。
ダイアフラム本体の最低共振周波数は350Hz付近にあるようですが、コンプレッションドライバーの場合はカットオフが低いホーンに取り付ければさらに低い周波数まで使えるとはいえ、空気歪みのためローエンドでは歪み率が急激に悪化するため低い周波数まで使うのはお勧めできません。


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